5期メンバーとは何だったのか(後編)


2007年、それまで数々の苦難を越えてきた5期メンバーに最大の試練がやって来ました。予想外の形で、高橋愛モーニング娘。のリーダーになったのです。それまで歌唱の中心ということでエースと呼ばれることはあったものの、そこにリーダーの重みが加わって耐えられるか、モーニング娘。にとって大きな不安となりました。


そこで高橋愛とそれを支える新垣里沙がとった道は、まずは自らがかつて壁に苦しんだゆえだったのでしょう、モーニング娘。の中に壁を作らないようにすることでした。そしてもう一つ、圧倒的なパフォーマンスを追及することでメンバーを引っ張る、それだけは自信を持ってできることだったと思います。しかし、その状況から来た悲壮さは、元来のキャラクターの暗さと相まってモーニング娘。に影を落とすことにもなりました。また歌唱パフォーマンスへの専心も「小さくまとまってしまった」という印象を強化し、さらなる非難を呼び起こすこととなってしまったのでした。


ただ、そのような冷たい視線も全て覚悟の上だったのでしょう。たとえ華がないと言われようとも確固たる技量があれば細くとも長く生きられる、そんな確信がモーニング娘。に関わるスタッフにはあったのだと思います。そして5期を「第2のオリメン」にしようという意志があったのかもしれません。しかし元々ソロ歌手志向だったためにオリメンが持っていたバラバラの野心だけが5期にはなく*1、それは初期からのファンには物足りなさと映ることが多かったのもまたつらいものでした。


2009年にはモーニング娘。を卒業してからもハロープロジェクトという大きなまとまりの中にあった先輩たちがそこを離れることになり、高橋・新垣には新たなハロプロを引っ張るというこれまで以上の重みが圧し掛かってきました。しかしそれも、5期を第2のオリメン、なかんずく高橋愛中澤裕子と並ぶ存在にしてその役割を果たしめることで、長らく受けてきた数々の攻撃に打ち勝つことために与えられた試練だったのだと思います。


やがて世間は相変わらず冷たい中にも変化が見えてきました。音楽界の一部に目立つなりふり構わぬ行動はモーニング娘。にとって厳しい逆風ではありましたが、一方で娘。の堅実さを浮かび上がらせる方向にも働きました。また高橋愛にはない能力を持っていて、しかしあくまで愛ちゃんを尊敬し支える態度を守ってきた道重さゆみの活躍は、歌によるアピールが難しい中ではモーニング娘。を忘れていた人々にとっても訴えかけるものがありました。


そして長く新メンバーを迎えることのなかったモーニング娘。に、久方ぶりの卒業と加入の時がやって来ました。節目の到来はこれまでの長い苦難の時が無駄でなかったことを知らしめ、一方で未来への不安を再来させました。

*1:愛ちゃんの宝塚への夢はそれに近いものでしたが……。

5期メンバーとは何だったのか(完結編)

前編中編後編はこちら


モーニング娘。の充実は、新メンバーにとって高い壁になる可能性がありました。もはや全くの新人では誰が入っても叩かれるのは避けられないなら、あるいは真野恵里菜矢島舞美でも入れるのがよいのではないかと考えたほどでした。しかし目の前に現れた9期メンバーはそんな不安を打破するに十分でした。とりわけ鞘師里保の資質は、愛ちゃん推しの人も高橋愛の後継者としての可能性を認めているようです。


9期の登場に続いて、ついに高橋愛に卒業の時が来ることが発表されました。新メンバーを1年足らずの間にある程度育てなければならない、それはまさに最後の試練でした。しかしこれまた「待望の卒業」と言わせないために選ばれたタイミングであったのかもしれません。そして9期は予想以上に速く受け入れられました。それはもう誰も泣かせたくないという、メンバーとファンに共通する想いの為せる業でした。これ即ち5期の功績と言うべきだと思います。新メンバーがこんなによいものならば……ということなのか、矢継ぎ早に10期メンバーの募集も行われ、期待は高まります。


一方、早くにモーニング娘。を離れた2人のうち、紺野あさ美は芸能活動再開後は学業優先ながらフットサルで、そして音楽ガッタスとして足跡を残しました。そして今年からテレビ東京でアナウンサーとして予想以上に目立つ活動をしており、娘。時代のなかなか輝く舞台が与えられなかった頃は何だったのかとも思いますが、実績として認められたのだとも言えるでしょう。また小川麻琴も主に演劇で地道に実績を残しており、これから卒業するメンバーには小さいながらも希望の灯になるはずです。


モーニング娘。の第3の完成は今なのか、それとももう少し先にあるのかまだわかりませんが、日本史にあっても大きな節目になるかもしれない2011年に、10年にわたって荒波を越えてきた4人にまもなく大きなクライマックスが訪れます。

あとがき

「5期メンバーは何だったのか」を書きたかったきっかけは、3年も前の更新にありました。

なお、「5期の壁」に関しましては、加入から7年を経た現在においても生きた問題として考えるべきと思いますが、私の考えは痛井ッ亭。さんとはおそらく違うものでして、5期オーディションは「原点回帰」というよりは「脱ASAYAN」を目指したもので、それがうまくいかず後々まで響いたのではないかと思っております。これは後日詳述しようと思います。

http://d.hatena.ne.jp/JuliusCaesar/20080806#1218048297


「後日」が3年も後になってしまい、その間に私の心境も、さらにモーニング娘。の状況も変化してきましたので、当時書きたかったこととは違うものになったと思いますが、一度宣言したからにはどれほど経とうとも書いておこうとは思っていました。当時の私の心境を知りたい方は当ブログの08〜09年あたりの更新を掘り返してみて下さい。


時間の経過以外にも、ツイッターという字数制限が厳しく批判的なことを語るのに向かないシステムに慣れたこと、それによりブログの更新から遠ざかったこと、そして何よりモーニング娘。の歴史の転換点を前にして「もう誰も泣かせたくない」という想いを私も共有していることから、今をネガティブに描くことは避けようという気持ちが働き、以上のような内容になりました。


ともあれ、これで心おきなく武道館に行くことができます。