ハロプロと自民党を(強引に)比較する

2005年と2009年、あれほどまでに選挙結果が両極端に振れたのは、国民が望んだかはともかく選挙制度がそれを望んだのは間違いないでしょう。「誰なんだ」ということであれば、小選挙区制導入の中心人物であった小沢一郎氏でしょう。


この4年間の自民党は「勝ちすぎた後の苦難」の歴史であったわけで、まさしくハロプロと重なります。また、バックグラウンドが保守であったものが革新的なイメージにより成功して、しかしその後は保守色が強くなって勢いを失った、というのも共通します。


さてハロプロあるいは芸能界における「保守」というのを考えてみましょう。そもそも保守というのは多義的であり、それは各々が守りたいものが異なるからでしょう。
本来の保守思想はイギリス人の急激な革命を嫌う考え方から生まれたとされます。*1日本では明治以来、欧米の文物を受け入れるに当たってそれに対して「伝統を守れ」という主張が保守ということになりますが、その「伝統」の多くは中国由来であってそれにどう距離を取るかが問題になります。やがてロシア革命が起こり、ソ連とどう向き合うかが問題になると、世界的に保守の概念は複雑化して、自由民主党の名前が象徴するようにそれまで対立概念であった自由主義保守主義が同時に主張されることになります。
芸能界における保守本流というと、往年のナベプロが生んだ数々のタレントや作品の流れが思い浮かびます。その中身は多種多様ですが、共通するのは広く大衆の支持を受けることを志向することでしょう。*2アップフロントフォークソング〜ニューミュージックの流れの音楽を中心に発展しましたが、それらといわゆる昭和歌謡は対立していただけでなく取り込もうとする動きもあり、アリスなどは歌謡曲に近い存在でもありました。


現代の日本において主張される保守と言えば、90年代から盛んになった歴史観の見直しやそれに伴う教育改革の主張などがあり、その代表は安倍元総理の「美しい国」「戦後レジームからの脱却」です。*3

美しい国へ (文春新書)

美しい国へ (文春新書)

ハロプロの楽曲が昭和歌謡に関連して語られるのはこれに似ていると言えます。また「ウンコしない」とか「恋愛禁止」などの今となっては時代錯誤とも言われる主張*4も関連するでしょうか。個人単位では石川梨華嗣永桃子、グループ単位でも美勇伝Berryz工房は「美しい国」的存在と考えられます。


それに対して、もっと日常に近いところに保守の源泉を求める考え方もあります。その例が麻生総理の「とてつもない日本」です。

とてつもない日本 (新潮新書)

とてつもない日本 (新潮新書)

社会のさまざまな面に「日本の底力」を見出し、それを維持し発展させなければならないというものです。しかし首相在任期間は経済危機への対応に追われ「全治3年」と言わなければならない事態であり、「とてつもない」を前面に出せなかったこと、小泉改革を修正すると明言したことで党内外の支持を十分に得られなかったことで、結局は志半ばにして選挙に敗れることになりました。
2005年あたりからのモーニング娘。も、いわば「継続こそがすばらしい」という考えで一定の支持を保っています。一方で当初の路線から少なからず変化していることでかつての支持者に嫌われたことなどから、ハロプロの周辺環境の悪化を克服し切れていないことも否定できません。


さて小泉改革とは何かと言いますと、80年代の三公社民営化からの流れをくむもので、非効率的になりがちな官業を縮小することにより経済活力を高めるというものです。しかし公務員に対する福利厚生の手厚さなどから、官業はそれ自体福祉の側面を持っており、その縮小は民間企業の福利厚生の後退をも招いたことから「新自由主義の歪み」として非難を受けました。これに対する世論はいまだ定まっておらず、民主党に対して「今まで以上に無駄をなくして福祉を充実させるなんて、そんな魔法があるものか」という批判はあるものの、少なからぬ人々が魔法に期待せざるを得ない思っているようです。
芸能界における改革といえば、音楽界における自作自演へのシフトなど「タレント本人の意志を尊重する」というのが大きな軸と言えます。しかし、例えば1990年頃のバンドブームが生んだ死屍累々*5のように、その理想の実現は必ずしも順調ではありません。エイベックスのようないわば革新系勢力*6に所属するアーティストがやりたいことをやっているかというと疑問があります。


小泉・安倍・麻生の歴代総理に共通したのは外交政策で、日米同盟を強化して中国・北朝鮮には厳しく当たるというものです。欧米とは異なりアジアでは依然として冷戦構造が残っていることから「アメリカ寄りか中国寄りか」は重要な対立軸となっています。それは本来の保守思想とは別物ではあるものの、現実主義の親米・理想主義の反米という構図から右派・左派と結びつくことになります。*7
ハロプロにとって日米同盟に相当するのは吉本興業との関係でしょうか。それもあって、歌にこだわるかそれ以外の分野にも進出するかというのが問題になっています。仕事の幅を広げて失敗するとイメージが悪化する、しかし歌だけで注目を浴びるのには限界がある、というジレンマです。さらにその辺のステータスのこともあって、一種の落としどころとして「今のモーニング娘。は喋れない」というレッテルが貼られた気もします。


芸能界では「選挙の時期」を選べないこと、小選挙区制でも二大政党制でもないことなど大きな違いはありますが、まとめるなら「イメージの維持がうまくいかなかった」というのが共通点ということになると思います。

*1:漸進的な改革は否定されず、むしろ積極的に主張されることもあります。

*2:保守思想家はしばしば大衆社会を批判することがありますが、ここでは無関係でしょう。

*3:アメリカの宗教保守に似ていますが、日本のものをそう呼ぶのは抵抗があります。

*4:これに近いのは安倍氏の主張というよりは、それを持ち上げようとする過激な思想家のそれだと思いますが。

*5:短期間に同種のグループが多く登場したことによる陳腐化や、力量不足の者が多かったことが原因とされています。

*6:ベースが革新であるものの、勢力拡大に伴い保守をも取り込んだということで、民主党に似ているでしょう。

*7:しかし、親米右派と反米右派はよく聞きますが、なぜか反中左派は見かけませんね。